【YOI】縁側うたたね
※練習用に書いたいまいちオチてない小話。ユーリは思春期。
「だからなんでくっついて寝てるんだよお前らは!あっついだろうが!」
夏の夕暮れ、風通しを良くするよう、あけはなしてある勝生家の座敷に、ユーリの怒りの声が響いた。続いて、ちりんちりんと風鈴の涼し気な音色。
先ほどまで、風とおる縁側の、日陰になっている場所に寝そべり、健やかに寝息をたてていたユーリ・プリセツキーは、今は毛を逆立てた猫のように勇利とヴィクトルを威嚇していた。涼しい場所で気持ちよくうたたねをしていたはずなのに、目が覚めたら顔のすぐ前に勇利の鎖骨があり、さらに背後から勇利ごとヴィクトルに抱き込まれた状態だったのだ。さらにご丁寧に足元にはマッカチンが寝そべっていた。先ほどまでさらりと乾いていた肌に、今では汗がだらだらと流れている。暑い。
怒られている彼の先輩フィギュアスケーターの二人は、ユーリの怒りもどこ吹く風と、縁側につながる座敷でゆったりくつろいでいる。
「ごめんごめん。ユリオ、見に行ったらよく寝ていたから。タオルケットかけたんだけど、ついでに僕もそばで寝ころんでみたらこれが気持ちよくってさ。ついそのまま一緒に寝ちゃった。練習の後で眠かったし」
「勇利とユリオが二人して寝ていたら、俺も一緒に寝るしかないよね!ねえマッカチン」
まだ眠気を残し今にもあくびを漏らしそうな勇利の横で、館内着姿のヴィクトルはご機嫌にマッカチンの首筋をかいてやっていた。
飼い主と一緒にユーリと勇利にくっつくように寝ていたマッカチンは、飼い主に相槌を打つように、くぅん・・と甘えた声を漏らし、尻尾を激しく振った。
「意味わかんねえよ!このくそ暑いのにくっついて寝るのが習性なのかお前らは!もう縁側入ってくるな!かさばる!この障子のとこから立ち入り禁止!」
言って、障子の敷居のところを境界線として示すと、大人二人からブーイングが上がった。
「えー、ユリオずるい」
「別にいいじゃん、その辺で一緒に寝るなんてよくあることでしょ」
「お前らな・・」
呆れた顔をして、ユーリはちらりとオタベックに視線をやった。
今回の旅行ではユーリと一緒にゆーとぴあかつきに滞在している彼は、縁側の隅であぐらをかき、真利の持ち物である少年漫画のコミック本を丁寧にめくっていた。彼は日本語の文字はほとんど理解できないはずだが、絵を眺めているだけでも大まかなストーリーはわかるし面白い、と構わず読んでいる。普段はほとんど漫画に触れないので、物珍しいらしい。
コミック本と彼らのやり取りをかわるがわる眺めていたオタベックは、ユーリの視線に気が付くと、うなずいて言った。
「ロシアのチームは、相変わらず仲がいい」
ユーリの顔がぱっと赤くなった。彼の白い肌は、血が上る様がわかりやすい。
「寝てるとき、たまにおっさん達が勝手に寄ってくるだけだろ!誤解させるような事言うな!」
もう目が覚めた、アイス買いに行こうぜとユーリはオタベックを誘い、縁側を去っていった。
残された勇利とヴィクトルは、顔を見合わせた。
「なんかユリオ、いつもより怒りっぽくなかった?」
「オタベックの前だからちょっと照れてるのかも」
「あ、きっとそれだ」
悪いことしたかも、まあいいんじゃないかなーなどと言っていた師弟は10分後には再び座敷の畳の上ででそろって眠りにつき、真利が起こしに来るまで目を覚まさなかった。夏の昼寝はとても気持ちがいい。